ASDとは、発達障がいのひとつ。そのため、周りが「できて当然!」と思うことでも、うまくできないことがあります。
保育園や幼稚園で過ごす時間は、子どもの人格を形成する重要な時間。それでも「ASDってどんな障がいなの?」「ASDの子どもの担当になったら、何に気をつけたらいいんだろう?」と不安に思うかもしれませんね。
そこで、この記事ではASDの子どもへの対応や接し方についてご紹介。ASDの子どもに見られる特徴や、保育士が子どものためにできる支援についてもご紹介します。
ぜひ参考にしてみてくださいね。
ASDとは発達障がいの一つ
ASDとは、「自閉症スペクトラム(Autistic Spectrum Disorder)」という発達障がいの一つです。そしてスペクトラムとは、英語で「連続しているもの」という言葉。
もともと発達障がいは、現れる特徴の強さによって分類していました。しかし研究を重ねていくうちに「特徴にはいくつか重なるところがある」という意見が増加。そこで、一つの障がいとして捉えるために、「自閉症スペクトラム」と名前をつけました。
しかし専門医の中には「特徴は区切るべきだ」という考えの人も。そのため、専門医によっては特徴の強さで障がいを分類し、次のように診断することがあります。
- 自閉症
- アスペルガー症候群
- 小児期崩壊性障がい
- レット症候群
ただし、現在世界でも多くの専門医が「自閉症スペクトラム」という言葉を使っています。もし、これらの4つの障がい名を聞いたら、「自閉症スペクトラムのことだな」と考えましょう。
ASDの子どもに現れる主な特徴
ASDの子どもには、大きく分けると3つの特徴が現れます。
- 対人関係の障がい
- コミュニケーションの障がい
- 想像力の障がい
細かく分けると、次のような症状が見られます。
- ・人との関わりに無関心、関わりを避ける
・人と目を合わせない
・一人で遊ぶことが好き
・表情が少ない
・質問に対してオウム返ししたり、会話が一方的になる
・変化を嫌って同じ行動をくり返すなど、こだわり行動がある
・相手の気持ちを考えられない
・音、ニオイ、痛みなどの刺激に強い不快感を持つ。逆に刺激に鈍いこともある
子どもによって、症状は十人十色です。重症度も個人差があるため、知的障がいがなく軽度なものであれば、発見が遅れることも。そのため、周囲の人たちには「マイペースな子だな」「集団行動ができない子」「融通がきかない」と誤解されることが多くなります。
自閉症スペクトラムはどのようなメカニズムで発症するのか、詳しい原因は分かっていません。有力な説では、「脳の機能がうまく発達できていないことが原因」と言われています。「子育ての仕方が悪い」「しつけができてない」から現れるわけではありません。ただし、治療方法が確立されているわけではないため、完治も難しいのです。
そこで、ASDの子どもたちがイキイキと過ごすためには、家庭だけでなく、保育園や幼稚園でも適切な支援を行うことが必要になります。 次からは、保育士はASDの子どもと接するとき、どのようなことに気をつけるべきか説明していきます。
ASDの子どもに接するときに気をつけること
ASDの子どもに接するときは、次の4つについて気をつけましょう。
- クラスで過ごしやすい環境をつくる
- コミュニケーションが取りやすいように工夫する
- 簡単に想像できるように、工夫する
- 保護者にも、フォローを入れる
それぞれ詳しく説明していきます。
クラスで過ごしやすい環境をつくる
ASDの子どもがクラスで過ごしやすいように、環境をつくってあげましょう。
例えば、次の2つの方法があります。
それぞれ分かりやすく説明しますね。
1.いきなり集団の中に入れようとしない
ASDの子どもが保育園や幼稚園に来たら、いきなり集団の中に入れないようにしましょう。
もちろん、今後社会で生きていくために集団行動は大切です。しかしASDの子どもは、人と接することが苦手。そして、一人でいることも好きなので、知らない子どもが多いと混乱してしまうことがあります。
まずは、静かな職員室などで、保育士と一対一で接してみましょう。絵本を読んだり、子ども自身が好きな遊びをすることで、「保育園は、怖い場所じゃないよ」と伝えることができます。
保育園自体に慣れさせてから、少しずつ他の子どもがいる空間に移動していきましょう。
2.居場所が分かるようにする
子どもが教室に慣れてきたら、教室での居場所が分かるようにしましょう。
集団行動に慣れるためとはいえ、ASDの子どもにとってはストレスがかかるもの。そこで、自分の居場所となるところがあれば、パニックを起こさずにいられます。
例えば、少し離れたイスに、子どもが気に入っているキャラクターのシールや絵をはっておくと良いでしょう。一目で自分の場所だと分かるものだと、さらに良いです。絵を描いたり、粘土遊びなどの制作活動をしているときに落ち着かない様子でいたら、子ども専用の場所を区切って用意してあげるのも方法の一つ。
ASDの子どもにとって、一人の時間は自分のガス抜きをしているようなものです。無理やり集団に慣れさせようとするのではなく、少しずつ保育士も子どもの世界によりそってあげましょう。
コミュニケーションが取りやすいように工夫する
ASDの子どもがコミュニケーションを取りやすいように、工夫してあげましょう。
そのためには、次の2つに気をつけることが大切です。
それぞれ分かりやすく説明します。
1.指示を伝えるときは、具体的かつ簡単に
ASDの子どもに指示を伝えるときは、具体的に短く伝えるようにしましょう。
ASDの子どもは、空気を読むことが苦手。そのため「そんなことしちゃダメ!」「ちゃんとして!」と注意しても、「何がダメなのか」「ちゃんとって何?」とすぐに理解できません。
例えば、子どもがオモチャを片付けないときは「オモチャは箱に入れて」と、どうしたらいいのか具体的に示してあげましょう。また「オモチャは出したらダメ!」という否定の言葉よりも、「オモチャは箱に入れます」という肯定の言葉に変換するのも方法の一つ。
短く、肯定的な言葉を使えば、子どもも理解して受け入れやすくなります。
2.絵やカードを使う
ASDの子どもと話すとき、言葉でうまくコミュニーケーションがとれなかったら、絵で説明してみましょう。
人は、目からの情報が頭に入りやすいと言われているからです。またASDの子どもは、耳から入ってくる音に反応しにくいことも。
例えば、「お絵かきの時間なのに、うまく指示が伝わらないな」というときは、絵を描いている子どものイラストを見せて、「次は絵を描く時間だよ」と伝えてあげましょう。このとき、頭や手にふれたりしないことがポイント。感覚が敏感な子どもだと、手にふれている感覚の方に気が散ってしまいます。
絵だけでなく、しぐさや身ぶりなどの動きも加えて、コミュニケーションの機会を増やしていきましょう。
簡単に想像できるように、工夫する
ASDの子どもが簡単に想像できるように、工夫してあげましょう。
例えば、次の3つの方法があります。
それぞれ説明していきます。
1.スケジュールを先に伝える
ASDの子どもには、あらかじめスケジュールを伝えてあげましょう。
誰でも、やったことのない活動や知らない場所にいくときは不安になるもの。とくにASDの子どもは、先の予測ができないと不安を覚えてパニックやかんしゃくを起こしてしまいます。
そこで、朝は必ず今日の予定を伝えてあげるようにしましょう。黒板を使った大きなスケジュールに、「お絵かき」「外で遊ぶ」など、書き込んで分かりやすくするのがポイント。字が読めない年齢であれば、イラストを貼り付けても良いでしょう。
また、遠足や行事があるときは、前日には伝えましょう。少しでも不安を取り除いてあげると、子どもはパニックを起こしにくくなります。
2.先生が休みなど、突然の予定変更のために、予定変更カードもつくる
突然の予定変更が起きたときのために、考えられる予定変更のカードやイラストを作って起きましょう。
スケジュールをそのままにして、予定を変更してしまうとASDの子どもは混乱してしまいます。
例えば、天気の関係で外遊びができなくなったとします。そのとき、スケジュールの「外遊び」はそのままに、「教室でお遊び」と書き足します。そして、スケジュールの中にある「外遊び」から「教室でお遊び」に線を引きましょう。ここで、色つきのチョークで文字を囲んだりしておくと、「変更」ということが分かりやすくなります。
また、見慣れている担任の先生が休んだときでも、「わたしの先生はどこ?」と子どもは探してしまうもの。代理の先生が来るのであれば、分かるようにスケジュールに顔イラストなどを貼りましょう。
パニックにならないように、あらかじめ代理の先生は子どもと面会しておく必要もあります。
時間の区切りを意識できるように、タイマーを使う
遊ぶ時間などを区切るときは、タイマーを使って「終わり」を意識させましょう。
ASDの子どもは、「時間がきたからおしまい」と楽しいことを時間で区切って終わらせるのは苦手だからです。
例えば、時間を区切るときは音の出るタイマーを使って、切り替えができるようにすると良いでしょう。「タイマーが鳴ったから、今やっていることは終わり」というルールを作り、「時間」をしっかり意識できます。
きちんと切り替えができたら、「すごい!切り替えできたね。」とほめてあげましょう。
保護者にもフォローを入れる
ASDの子どもの担当になったら、保護者へのフォローも行いましょう。
ASDの子どもを持つ保護者は、とにかく子どものことが不安で仕方ないからです。とくにパニックを起こしたときに強く怒ってしまい、「かわいい我が子なのに、こんなに怒ってしまって親失格なんじゃないか」と自己嫌悪になってしまいがち。「これから大丈夫だろうか」「園ではうまくやれてるのだろうか」と漠然な不安を抱えています。
そこで、保護者には「園では、少し教室から離れるとパニックにならずに過ごせましたよ」「今日は大好きな積み木遊びをして、楽しく遊んでいました」など、ポジティブな言葉で子どもの様子を伝えましょう。
もしパニックになってしまったら、隠さずに伝えることが大切。「パニックになったけれど、〇〇くんのスペースに座ったら落ち着きました」と対応とその結果も伝えられるとさらに良いです。対応がうまくいかなかったときは「お家ではいかがですか?」と悩みを共有することも、保護者へのフォローになります。
悩みを共有すると、一緒に対応を考えることができるだけでなく、保護者から子育ての不安や気持ちを言ってもらえる関係に。家での様子を聞けることで、対応のヒントにつながります。
お家や保育園でできたことがあれば一緒に喜び、ときに一緒に悩む。優しくて、暖かい対応を心がけましょう。
大切なのは「楽しい感情」を積み重ねて、できることを増やすこと
以上が、ASDの子どもと接するときに、注意するべきポイントです。大切なのは、子どものできないことを減らすのではなく、できることを増やしていくこと。そのためには、何かできたら「すごいね!」とほめたり、好きな遊びができるなど、子どもにとって「うれしい」「楽しい」という感情を積み重ねる必要があります。
まずは、子どもの好みや性格、嫌いなものをしっかり把握しましょう。子どものことをよく知ってこそ、本当の支援をすることができます。
しかし、保育士はただの付き人になってはいけません。なるべく、子どもが自分を頼らなくても大丈夫なように、タイマーやノートなどのツールを使って日常生活が送れることを目指しましょう。
まとめ
ASDの子どもの対応について、紹介してきました。
ASDはとくに、周りから理解されにくい障がい。「どうしてこっちを向かないんだろう?」「真剣に話を聞かない!」と誤解を受けやすいため、子ども本人だけでなく、保護者もストレスを抱えやすいのです。
しかし、決してわざとやっているわけではありません。性格はどんなものなのか、どの遊びが好きで、何が得意なのか。まずは、子ども自身について、よく知っていくことが大切です。
そして、子どもがのびのびと成長するためには、保護者だけでなく、自分以外の先生にも協力してもらいましょう。保護者と園が一体となり、子どもに寄りそって育てていくことは、ASDの子どもへの一番の支援になります。
ぜひ対応方法を参考にして、子どもにとってもあなたにとっても、素敵な時間をすごしてくださいね。