PTSDとは、心的外傷後ストレス障害のこと。心にできた傷を何度も思い出してしまう状態が続くことで、心と体に不調が現れる病気です。
とくに感受性の強い子どもたちは、大人よりもPTSDになりやすいと言われています。PTSDの子どもたちを救うためには、保護者や保育士など周りの大人のサポートが不可欠です。
でも「どうやって接すればいいの?」「そもそもどんな症状なの?」と分からないことが多いかもしれませんね。
そこでこの記事では、保育士が知っておきたい「PTSDの子どもへの接し方」をご紹介!もっとPTSDに詳しくなれるように、主な症状や原因についても紹介します。
ぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
PTSDとは何か?
PTSDとは、心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)という病気です。災害や事故、虐待や犯罪の被害など強いショックやストレスが「心の傷」になり、何度もその状況を思い出してしまうことで、心身に不調が現れます。
「トラウマ」と間違いそうになりますが、トラウマは心の傷(心的外傷)のこと。PTSDは、トラウマがきっかけになって起こるストレス障害のことです。
最近では日常会話で「トラウマになった」「トラウマを抱えている」と使う人もいるため、軽い障害に聞こえるかもしれません。しかし、PTSDの原因になるトラウマとは、思い出したくもないほど悲惨で、不幸なもの。人によっては、「当時の感情が痛みをともなってよみがえってくるたびに、心が凍りついて打ちのめされる」と表現するほどです。
トラウマを受けた心は、くしゃくしゃに丸めた紙のようなもの。一度丸めてしまったら、元のまっさらな紙に戻すことはできません。そして、無理に戻そうとすると破けてしまいます。
そのため、ゆっくりと時間をかけて心を回復させていかなくてはいけないのです。
PTSDで悩む子どもは少なくない
このようにPTSDは深刻な心の障害なのですが、実はPTSDを発症する子どもは少なくありません。
とくに多いのは、育児放棄や暴力、言葉の暴力などの虐待によってPTSDを発症してしまうケースです。また、最近では3.11によって家族や友人を失ったショックで、PTSDに悩まされている子どももいます。
それでは、どのような症状がみられたらPTSDと言えるのでしょうか?
PTSDの子どもに見られる主な症状
PTSDは、ショックなことがあった後すぐに現れるわけではありません。トラウマができた後、体や心には一時的に「ストレス反応」が現れます。この「ストレス反応」は、時間が経つにつれてショックが和らいできて、回復することも。しかし、1ヶ月以上もストレス反応が続いているときに初めて、「PTSDかもしれない」と疑われるのです。
例えば、「失恋」してしまったとしましょう。失恋したときは、食欲がなくなったり振られたときのことを思い出して、眠れなくなることがありますよね。これが「ストレス反応」です。一定の時間が経つと多くの人は心が回復していくので、ストレス反応はなくなっていき、次の恋や出会いを探していきます。
しかし、この失恋のショックからずっと心が回復しないと、ひどい人間不信になってしまうことも。人の言葉を何も信じられなくなったり、心を開かなくなります。この状態がPTSDです。
トラウマ体験をした後に、次のようなストレス反応が1ヶ月以上見られたら、PTSDの疑いがあります。
食欲:食欲がなくなる、吐き気がある
痛み:頭痛、腹痛
睡眠:眠れない、夜中に目が覚める、悪夢を見る
体調:便秘がちになる、下痢が続く、おねしょをする
衝動性:落ち着きがない、攻撃的になる、注意散漫になる、集中力がない、急に泣いたり怒ったりする
執着、再現:こだわりが強くなる、トラウマ体験に関連した遊びをする、トラウマ体験を何度も話す
赤ちゃん返り:ぐずったり、泣くことが増える、保育士や両親にまとわりつく、人から離れるのを怖がる
気持ちの低下、無気力:元気がない、気持ちが落ち込む、ボーっとする、やる気が出ない
そして、PTSDになってしまったときは次の症状が現れるようになります。
フラッシュバック:原因となったできごとを何かの拍子に思い出す。恐怖や苦痛、怒りや悲しみなどさまざまな感情が混じった記憶がよみがえる。パニックになることも。
回避:つらい記憶を思い出す場所や人から離れる。無意識に避けていることもあるため、行動が制限されることも。
過覚醒:いつも精神的に不安定になる。集中できず、いつも極度に緊張している。ささいなことでもおどろく。警戒心が強くなって、よく眠れないことも。
感覚まひ:つらい記憶を思い出すことで苦しむのを避けるために、感覚や感情がまひすること。人に心を許さなくなり、人からの愛情を感じにくくなる。
PTSDになると、心の回復にかなり時間がかかってしまいます。その分子どもたちが苦しむ時間が長くなるため、PTSDになる前段階で適切な支援をしなくてはいけません。
ここからは、子どもに「心の傷」ができてしまった後の対処法について紹介します。
保育士ができるPTSDの子どもへの対処法
PTSDになった子どもはの治療は、主に精神科医や臨床心理士が行います。心の専門家から具体的な指示があるのなら、その指示に従って子どもと接するようにしましょう。
もし、医師からの指示がないときは、保育士は子どものストレス反応に合わせて対応します。
ここでは、次の6つの症状の対処法について紹介していきます。
- 恐怖感や不安感を示す
- 落ち着かない
- 衝動的に行動してしまう
- 保育士から離れない
- 赤ちゃん返り
- トラウマ体験を何度も話す、再現遊びをする
恐怖感や不安感を示すときは、そばにいてあげよう
子どもがトラウマの体験から恐怖感や不安感示していたら、とにかくそばにいてあげましょう。そばにいることで、安心感を与えることができます。
例えば、「大丈夫だよ」と積極的に声をかけましょう。一緒に遊んだり、絵本を読むのも方法の1つです。手を握ったり、抱きしめてあげるなどスキンシップも気持ちが落ち着きます。
子どもに「おびえなくてもいいんだよ」「安心してね」という気持ちを伝えるようにしましょう。
落ち着かないときは、一緒に気持ちを整理してあげよう
子どもがイライラしていたり、落ち着かないときは、一緒に気持ちを整理してあげましょう。トラウマ経験後、子どもの気持ちは不安定になりやすいもの。「どうしてイライラしてるの?」と聞いても、子ども自身が分からないこともあるのです。
まずは「怖い思いをした後、そうなってしまうのは自然なことなんだよ」と伝えましょう。また一緒に部屋を片付けるように誘って、部屋を整理するのも方法の一つ。何かをきれいにすることで、気持ちを整理できることがあります。
「落ち着いて!」と子どもに気持ちのコントロールを任せるのではなく、こちらから方法を教えてあげましょう。
衝動的に行動してしまうときは、言葉を代弁してあげよう
子どもが言葉に出さず、衝動的に行動してしまうときは、子どもの気持ちを代弁してあげましょう。保育士が言葉にすることで、子どもは「先生は僕の気持ちを分かってくれるんだ」と安心するからです。
例えば、「急に大きな音がしてびっくりしたんだね。怖かったね」と具体的に気持ちを代弁してあげましょう。
本当は伝えたいことがあるのに、言葉にできないのは子どもでも苦しいもの。すぐ反応できるように、できるだけよく子どもを見ていてあげましょう。
保育士から離れないときは、大切な存在であることを言葉で示そう
子どもが自分から離れられないときは、「あなたは大切な子だよ」と言葉で伝えてあげましょう。言葉にすることで、「頼れる大人がいなくなったらどうしよう」という不安から抜け出すことができます。
「ちょっと離れて」「今忙しいから、後でね」など突き放すような言葉は言ってはいけません。もし集中したい仕事があるのならば後にするか、「そばにいていいからね」と伝えて仕事をしましょう。
「大切な存在だよ」という気持ちを言葉と態度で、示すようにするのがポイントです。
赤ちゃん返りしたときは、無理にやめさせないようにしよう
赤ちゃん返りしたときは、無理にやめさせないようにしましょう。赤ちゃんはいわば、みんなから守ってもらえる存在。赤ちゃん返りすることで、不安から抜け出そうとしているのです。
もし無理にやめさせようとすると、不安を解消する方法が分からずパニックになってしまうことも。まずは、大きな音がでるオモチャをなくすなど、安心できる環境を作ってあげましょう。
トラウマ体験を何度も話す、再現遊びをするときは、落ち着くまで待とう
子どもが自分のトラウマ体験を何度も話したり、再現して遊んでいるときは、落ち着くまで待ってあげましょう。これらは、子どもが心の整理をしているところだからです。
耳を傾けて子どもの気持ちに寄りそい、子どもがトラウマ体験について整理できるまで待ちましょう。やめさせるのではなく、見守るのが大切です。
ただし、「再現すれば心の整理ができるから!」と言って、無理やり思い出させてはいけません。あくまでも子どもが自主的にしていたらに限ります。
何ヶ月にもわたって症状が出るときは、専門家に相談を
以上が、PTSDの子どもやトラウマ体験をした子どもへの接し方です。トラウマになるほどショックなできごとがあったら、すぐに心を回復させることはできません。ゆっくり時間をかけて回復に導いてあげましょう。
ただし、精神力は子どもによって個人差があるもの。同じトラウマを体験したのに、一人は回復して、もう一人は回復できない、ということもあります。子どもへの接し方を気をつけたのに、まだストレス反応が出ていたり、生活に支障が出るほど症状が強くなったら、一人で抱え込まず専門家に相談しましょう。
保育士だけでなく、保護者や医療機関が連携して、子どもをサポートすることが大切です。
まとめ
PTSDの原因や特徴、PTSDの子どもへの接し方について紹介してきました。
PTSDは珍しい病気ではありません。子どもや大人に関わらず、誰でもかかりうる病気です。強いストレスやショックなできごとで心が傷つくことが原因なので、回復にも時間がかかります。
まずはトラウマ体験を克服できるように、しっかりと「安心感」を与えてあげるのが大切です。
精神力は子どもによって個人差があるもの。もし、ストレス反応が続くようであれば、心の専門家に相談しましょう。保育士だけでなく、保護者や医療機関など、子どもの周りにいる大人みんなで、子どもをサポートしてくださいね。