「保育の現場にAIはいらない!」そう思っている保育士は、60%いると言われています。確かに、AIは「愛」を持って子どもと接することはできません。
「子どもに愛情を注げない機械に、保育を任せたくない!」と保育士が思うのは普通かもしれませんね。
でも、案外「AIってそもそも何?」「どんなことができるの?」と不思議に思っている方も多いのではないでしょうか?実はAIを導入することで、保育士の負担が大きく減らせると言われているのです。
ここでは、保育現場にあったらうれしいAI技術をご紹介します。
目次
AIってなに?
そもそもAIとは何なのでしょうか?
AIとは、人工知能のこと。人間の脳が行っている作業をコンピューターでマネすることで作られました。
具体的には、次のようなことができるコンピュータープログラムです。
- 人間の使う自然言語を理解する
- 論理的な推論を行う
- 経験から学習する
ロボットとは違うの?
人工知能は人間でいう「脳」であり、ロボットではありません。
ロボットは外部からの情報を入力することで、プログラムにあった動きをしているだけ。組み込まれたプログラムの中で思考することができても、プログラムに入っていないことには対応できません。
一方、AIには「自ら考える力」が備わっています。つまり、人間の手を離れても自発的に発展していくことができるのです。
経験し、自ら発展する力があるAI技術は、人間がめんどくさいと思う作業を人間に代わってしてくれるので、作業の効率化を目指す人たちに注目されています。
もちろん、保育士の仕事も例外ではありません。それでは保育現場にはどんなAI技術が活躍するのでしょうか?
保育現場にあったら嬉しい6つのAI技術
次のようなAI技術があれば、保育士の仕事は効率的になります。
1.写真の仕分け
地味な作業だけど大変な仕事といえば、写真の仕分けですよね。どこの保育園でも、イベントがあれば保育士が写真を撮って、保護者に写真を販売するのが一般的。
しかし、カメラで撮影した写真をパソコンに取り込み、子どもの顔をチェックしながらクラス別に仕分けする作業は、時間も労力も使います。
AIを使えば、子どもの顔を登録するだけで、自動的に仕分けをしてくれるでしょう。
このように、大変な手間になる仕分けもAIに任せることができれば、保育士の負担も軽くなりますね。
2.睡眠時の呼吸や心拍数の計測
保育士の休憩時間といえば、子どものお昼寝の時間。子どもが寝ている間に交代で休憩したり、溜まっている事務作業を片づけたりします。
でも、子どもは寝ているときも気が抜けません。なぜなら、何の前兆もなしに死亡する「乳幼児突然死症候群(SIDS)」の80%以上が睡眠中に発生しているからです。
このSIDSを防ぐために、保育士は本来休憩時間であるお昼寝時間にも、5分ごとに寝相や呼吸をチェックしなくてはいけません。仕方ないことだとは言っても、これでは少しも休憩できませんよね。
そこで、子どもが寝ている間の呼吸や心拍数の計測をAIに任せることができれば、保育士の休憩時間を増やすことができます。異常な数値になったら通知するように設定すれば、事故を未然に防げるので、常に呼吸をチェックする手間もありません。
3.子どもの見守り
同じように、子どもが起きて活動しているときの見守りにも、AIがいると助かるかもしれません。
一人担任の場合、ぐずって泣いている子どもへの対応に追われて、全員に目が届かないこともあります。しかし、突然死はいつ起こるか分かりません。
そんなときも、代わりに見守ってくれるAI技術があれば、異常があったときすぐ対応できます。
4.消耗品の管理や発注
意外と保育士のストレスになっているのが、消耗品の管理と発注です。
子どものオムツや着替えは頻繁に使うので、数を把握していないと「足りない!」と焦ることになってしまいます。
また、1年に1度しかないイベントの準備を進めているときにも、「あれ?あの素材まだあったっけ?」「去年どこにしまったかな?」と材料を探すところから始めなくてはいけません。
予算の関係でムダ使いができないため、必死になって探すことも。
そんなとき、消耗品の管理と発注をAIに任せれば、在庫が少なくなったとき自動で発注できます。また、わざわざ倉庫に行かなくても、パソコンやスマートフォンがあればすぐに確認できるので、在庫のチェックする時間も短縮できるでしょう。
5.連絡帳やお便りなどの書きもの業務
毎日の連絡帳やお便りづくりなどの「書きもの業務」も、保育士の負担の一つ。
毎日一人ひとりの子どもの様子を観察しつつ、保育士からの愛情と子どもの成長が保護者へ伝わるように考えるのは大変です。
また、イベントがあれば早めにお便りを作らなくてはいけません。日頃の仕事をこなしつつ、手書きでお知らせを作るのも簡単なことではありません。
そこで、この書きもの業務の一部をAI技術に任せると、手書きする部分を減らすことができます。例えば、体温やトイレの回数などはスマートフォンで管理し、データをコピーして連絡帳に貼りつけるだけ。時間を設定しておけば、自動でコピーもしてくれるでしょう。日常生活の様子だけ手書きにすれば、負担も解消できます。
また、お知らせはある程度フォーマット化することで、時間短縮につながるでしょう。
6.保護者の送迎時間の管理
保育園では、決められた時間までに保護者がお迎えに来ないと延長料金がかかります。
そのため、保育園では玄関やクラスにカードリーダーを設置して、保護者の送迎時間を管理するのが一般的です。ただし、帰りのお迎えのときは、子どもを引き取った後にカードリーダーを通します。
すると、保育園には滑り込みで着いても、帰り支度に手間取ったら延長料金がかかることに。この場合は「通常時間に来ました」と配慮する保育園がほとんどですが、いちいちカードリーダーの修正をしなくてはいけないので、結局計算がめんどくさくなります。
このときAI技術を使えば、一度修正の操作をするだけで「修正の仕方」や「修正した後の計算方法」を覚えるので、手間なく保育料の計算ができるでしょう。
このように、AIを実現すれば保育士の仕事は今よりもとても楽になると予想できます。でも「実際には無理でしょ?」「夢のような話だよ」と思うかもしれませんね。実は、すでに保育現場にもいくつかAI技術は導入されています。
次からは、実際にある保育AIを見ていきましょう!
実際にある保育AIを4つご紹介
実際に導入されている保育AIには、次のようなものがあります。
1.るくみー
「るくみー」は、写真の仕分けを全て自動でしてくれるサービスです。株式会社ユニファが開発しました。
スマートフォンやタブレットの専用アプリで撮影した写真を自動的にアップして、仕分けもしてくれます。さらに、業界では初となる「顔認証機能」も搭載。保護者が子どもの顔の写真を登録すれば、子どもが写った写真を一覧表示してくれます。
全ての写真の中から自分の子どもが写ったものだけを探すのは、保護者にとっても大変なもの。
このように、保育士と保護者の負担を減らした「るくみー」は、保育業界で大ヒットしました。今では1300以上の保育園で使われています。
2.るくみーnote
さらに株式会社ユニファは「るくみー」の技術を活かして、デジタル連絡帳アプリ「るくみーnote」を開発しました。
「るくみーnote」は、主に子どもの健康管理に使えるアプリです。例えば、毎日の体温測定では、タップ入力するだけでアプリに記録できます。アプリに記録をためていくことで、子どもが熱を出すときの傾向を分析することも可能です。
また、食事内容や子どもの様子はアプリで撮影して写真で記録します。
さらに「るくみーnote」は、これらの情報を保護者と保育士で共有できるのがポイント。保育士が情報をインプットすれば、保護者もアプリで情報をチェックできるのです。
手書きだとデータに直すのに時間がかかるため、保育士の負担も大きくなります。「るくみーnote」なら一瞬で記録して正確なデータに直せるので、健康管理の仕事も楽になるでしょう。
3.MEEBO(ミーボ)
AI技術ではありませんが、株式会社ユニファは子どもの見守りロボット「MEEBO(ミーボ)」も開発しています。
MEEBOの特徴は、次の3つの機能を備えていることです。
- 命を守る:触らずに体温を検知する機能を持ち、地震速報を通知する
- 記録する:写真や動画を自動的に撮影し、アップする
- 遊ぶ:クイズやダンスをしたり、絵本の読み聞かせもする
将来的には、保育園に導入されているスマート機器やアプリと、MEEBOが連携することでAIが常に子どもを見守るシステムを作ることを目的としています。
登園するときから保育園で遊んでいる間、さらに帰るまで子どもの安全と健康を見守り、子ども一人ひとりのデータをためて分析することで、「〇〇ちゃんに風邪の兆候がある」など保育アドバイスをすることもできるでしょう。
4.見守りシステム
株式会社ユニファ以外にも、子どもの見守りシステムを開発している会社があります。株式会社シンクチューブでは、動画カメラとAIを組み合わせた見守りシステムを開発中です。
シンクチューブの見守りシステムは、次のような機能を持っています。
- 寝ている子どもの顔色、脈拍、呼吸を判別する
- 異常が発生すると保育士に警告を送る
まだ実用化はされていませんが、保育園と実証実験を行いながら開発を進めているようです。
子どもとメインで関わりを持つのは保育士、雑務はAIが理想
このように、すでにいくつかの保育園では、AIを使って保育士の負担を減らしています。
ただし、「AIを導入すれば必ずいい保育園になる」というわけではありません。
AIの仕事は、保育士が本来の仕事である「子どもが成長するための援助」に集中できるようにサポートするだけ。効率化することで保育士の仕事も良い方向に変えていかないと、ただAIに頼りきった保育になってしまいます。
どんなにAIの技術がすごくても、「愛情」を持って子どもと関わるのは人間である保育士にしかできません。しかし、「昔からそうしてきたんだから」と言って、進化を求めなければ保育士の仕事は苦しいままです。
保育士が「質の良い保育」を提供するために、雑務をAIに任せる。このようにAIと保育士で仕事を分け合うことで、本当の理想の保育を目指せるようになるでしょう。
まとめ
保育の現場で導入してほしい「AI技術」について、紹介してきました。
AIとは、経験して学ぶことができるコンピューターのこと。毎回設定しなくても、一度経験すれば自分で考えて仕事するのが特徴です。
保育の現場でも雑務や事務仕事を任せることで、保育士の負担を減らすことができると期待されています。
しかし、AIを使っているから「良い保育園」になるわけではありません。AIに頼り切るのではなく、質の良い保育を提供できるように保育士自身も変化することが求められるでしょう。
今後もAI技術は進化します。「昔はこうだったから」「よく分からない」と敬遠するのではなく、時代に合ったニーズに応えられるように保育士も勉強することが大切なのです。