潜在保育士と呼ばれる人たちを知っていますか?
潜在保育士とは、保育士資格があるにも関わらず、保育士の仕事をしていない人のこと。2006年には37万人ほどでしたが、2017年には約76万人まで増えています。
なぜ、彼らは潜在保育士になったのでしょうか?そして、なぜ潜在保育士の数は増え続けているのでしょうか?
ここでは、潜在保育士の実態について詳しくご紹介。潜在保育士になった理由や、潜在保育士が復帰するためにできる支援についても紹介します。
ぜひ参考にしてみてください。
目次
潜在保育士とは?どんな人たちのこと?
潜在保育士とは、保育士資格を持っているのに、現在保育士の仕事をしていない人のことです。
大きく分けると、次のようなタイプの人がいます。
・保育士の仕事をしたことはあるが、今は働いていないタイプ
どちらのタイプも、統計では「潜在保育士」と扱います。
潜在保育士はどれくらいいるの?
厚生労働省によると、2017年で潜在保育士は約76万人いるという結果が出ました。
潜在保育士の人数は、「保育士資格を持っている人数-保育士の仕事をしている人数」で計算できます。
2017年で保育士資格がある人は119万人いるのに対し、保育士の仕事をしている人はたった43万人。なんと保育士資格を持つ半分以上の人が、保育の現場で働いていないのです。
さらに調査を開始した2006年では、潜在保育士の数は37万人ほどでした。このように潜在保育士の数は、どんどん右肩上がりに増え続けているのです。
それではなぜ、潜在保育士の数は増え続けているのでしょうか?
潜在保育士はなぜ増えているの?復帰しない理由
潜在保育士が増えている大きな理由には、次の4つが挙げられます。
・待遇が良くない
・責任が重い
・他の仕事に興味が出た
順番に見ていきましょう。
結婚や出産
どの職業でも、結婚や出産を機に仕事から離れる女性は多いもの。
とくに保育士は女性が9割をしめるだけでなく、職業柄「しっかり責任を持って子どもを育てたい」と考える傾向が強いです。また、自分の子どもを預けながら他の子どもの世話をするということに、違和感を覚える人もいます。
出産も育児も体力を使うため、「仕事をする力が残っていない…」ということもあるでしょう。
データの中には、潜在保育士の7割が子育てをしているという結果もあります。結婚や出産までは働いても、その後も働き続けられる環境がないのも原因でしょう。
待遇が良くない
次に、保育士の待遇の悪さも原因の一つ。
とくに、仕事の多さの割に給料の少なすぎて生活できず、辞めてしまうという人が増えています。給料以外にも、「勤務時間の長さ」や「同僚や保護者との人間関係」に悩む保育士は多いです。仕事の多さから休むことができず、体を壊して辞めてしまう人も。
魅力を感じない職場には、戻りたいとは思いませんよね。
責任が重い
保育士はとても責任が重い仕事です。
教育業界の中でも、保育士は小さな子どもを相手に仕事をします。ちょっとした油断が大きなケガにつながり、命に関わることも。
まさにたくさんの命を預かる仕事なのです。毎日かかる大きなプレッシャーに耐えきれず、保育士から離れてしまうというわけですね。
他の仕事に興味が出てきた
このような事実から保育士の仕事に魅力を感じられず、他の仕事に興味が出てくる人もいます。
誰でも条件のいい仕事をしたいもの。そのため、「保育士は大変な仕事だよ」という話を聞くと「もっと自分には向いている仕事があるかもしれない」と違う仕事に興味を持ってしまうのです。
「保育士はかけがえのない仕事だ」という声が社会に届いておらず、保育士の社会的な評価が低くなってしまっているのも原因と言えるでしょう。
潜在保育士は、待機児童問題を解決する希望
このように潜在保育士が復帰できない理由はさまざまです。しかし、約64%の潜在保育士が「今の状況が解消されたら、もう一度保育士に復帰したい」と答えています。
2017年の潜在保育士は約76万人ですから、その64%が復帰すれば約49万人も保育士が増えることに。
現在、待機児童問題を解決するのに必要な保育士の数は、49万人と言われています。そのため、「潜在保育士がもっと復帰すれば、日本の保育士不足は解決できる!」と国も支援に力を入れているのです。
潜在保育士が復帰するために必要な支援や対策とは?
潜在保育士が復帰するために、国は次のような対策をしています。
・職場環境の改善
・子育てのサポート
それぞれ順番に見ていきましょう。
再就職への支援
まずは、潜在保育士が「仕事に復帰したいな」と思ったときのサポートです。
例えば、35都府県(45か所)に設置されている「保育士・保育所支援センター」では、就職説明会や、復帰する前の実技研修を無料で実施しています。
久しぶりに復帰する人にとって、「今のままで保育できるかな?」と自分のスキルに不安を感じることは多いもの。実技研修を受ければ、自分の保育スキルを取り戻せます。
また、再就職についての相談ができるのもポイント。
自分が住んでいるエリアではどこにセンターがあるか、調べておくと良いでしょう。
職場環境の改善
次は、職場となる「保育園」の労働環境の改善です。
例えば、主任保育士や園長など「管理者」を対象とした研修を行っています。職員が働きやすい「労働環境」について好事例を提供したり、管理者自身が今の労働環境を把握するためのマニュアルやチェックリストを作成することも。
また、労働環境を整えるために利用できる助成金も紹介しています。
職場を改善することで、潜在保育士が「モチベーションを上げて復帰できる」ようにするということですね。
子育てのサポート
子育て中の潜在保育士をサポートする制度もあります。これは国ではなく、自治体が独自に制度を考えて実施しているものです。
例えば東京都では、月額2万7000円まで保育園の利用料金を支給しています。未就学の子どもがいても復帰しやすいようにと考えられました。
支給されたお金は、保育園で2年以上勤務すれば返済が免除されます。
さらに、保育園では保育士の子どもの入園を優先すると規定した自治体も。潜在保育士の7割が子育てをしていることから、子育て支援に力を入れる自治体も多いのです。
保育園が個性をつくっていくこと
他にも、保育園が個性をつくることで、潜在保育士の復帰を支援できます。
個性的な求人にすれば、保育園にマッチした保育士が応募しやすくなるからです。
例えば、働く時間を「10時~15時」に限定してパートタイムの募集をかければ、子育てをするために退職した「潜在保育士」が応募しやすくなりますよね。
また、パートさんと正規職員とで仕事を分担する保育園や、保護者対応に困らないように毎月研修を行う保育園もあります。
保育園が何も工夫しないまま求人を掲載すると、「やっぱり合いません」とやめてしまう人がでてくるもの。しかし、職場の雰囲気をふまえて個性を出せば、必ず「ここなら働ける!」と保育園と相性の良い保育士が現れます。
政府にできない細かなことは、自分たちで解決しようとする努力も大切なのです。
まとめ
潜在保育士が増えている理由や、復帰するために必要な支援について紹介してきました。
潜在保育士になる理由は、子育てや職場の待遇などさまざま。人によって状況が違うため、多方面からの支援が必要になります。「お金があれば解決するだろう」という単純な問題ではありません。
まずは、保育士が働きやすい職場を作ること。そして政府に頼りっぱなしになるのではなく、保育園自身も変わる工夫しなければいけません。
「もっと働きたい」「でも働けない」そんな保育士をなくすために、保育士の現状をしっかり把握することが大切なのです。